金に投資すると聞いてあなたはどう感じますか?金には金利が付かないから投資には向いてない、買うにも売るにも手間がかかってめんどくさい、金の価値がこの先下がらないとも限らない。それはすべて幻想です。たしかに金投資のみで財を成すほど利益を出すのは難しいでしょう。しかし、金に投資するのは利益だけが目的ではありません。金にまつわる言葉で、「有事の金」というものがありますが、これは金が実物資産であるためにいわれています。 資産には実物資産と金融資産があります。 ふたつの違いを簡単にいうと、実物資産には「実体」があり、金融資産にはありません。 不況によって、いくら不動産価格が下がろうとも、その建物に人が住めなくなるわけではないので資産の実質的な価値は残りますが、会社が倒産してしまえば株や社債はただの紙切れになってしまいますね。 金融資産は、その証券なり通貨の発行元の信用に基づいて価値が決まり担保されるので「信用リスク」がありますが、実物資産は、そのもの自体に信用があり価値があるので、信用リスクはありません。 一方で、今の日本では尖閣諸島をめぐる中国との軋轢や、朝鮮半島の緊張感の高まり、日韓関係の悪化などの地政学的リスクも高まっています。 日本が紛争の当事国、最悪の場合は戦争の当事国となるリスクは高まることはあっても、消えることはないでしょう。 世界的にも中国とアメリカの対立や中東の紛争など、武力衝突の心配は尽きません。 紛争や戦争はその国の通貨の信用を簡単に失墜させます。 それに戦争が起きてどこかへ命からがら生き延びられたとしても、自国の通貨など何の役にも立たないのです。 そこで、どこへでも持ち運べて世界共通の価格でいつでも自由に換金できるという金の特徴、まさに「有事の金」が注目されています。 2020年の世界長者番付で4位にランクインしている世界一の投資家、ウォーレン・バフェットが、かつてこう言っていたそうです。 「アフリカかどこかから金が掘り出される。そしてそれを溶かして、また穴を掘って、また埋めて、それを守るために人を雇っている。それはなんの役にも立たない。火星から見ている人は誰でも頭をかくだろう」 バフェット氏が、1944年に株式投資で財を形成し始めてからその個人資産は一時、825億ドル(8兆7656億円)に上りました。 現在はコロナウィルス騒ぎで大きく資産価値を下げ、675億ドル(7兆1718億円)ですが、世界で4番目のお金持ちです。 そんな「投資の神様」ともいわれる彼は、金と株式のリターンを比較しながらこうも言ったそうです。 「魔法の金属は、アメリカの気概にはかなわなかった」 つまり、金の投資対象としての価値を全否定してきた訳ですが、ここにきて状況が変わってきたようです。 米バークシャー・ハサウェイ社の会長兼CEOでもあるバフェット氏は、今回のコロナウィルス騒ぎを受けて、航空セクターから完全に撤退しました。 そして一部の銀行株も売り払い、多くの現金を手元に残しました。 その理由について先日の記者会見では、バークシャー・ハサウェイの保険業という業態であるがゆえのリスク回避と、コロナの影響によってさらに経済が混乱し、中央銀行の対策がうまくいかなかった時のためだ、と語っています。 一方で、カナダの産金業界大手バリック・ゴールド社の株式を5億6360万ドル(600億円)で取得しています。 もちろん、金鉱山株と金とでは別物の投資です。 バリックゴールドが事業で利益を生み出せば配当や株主還元が行われ、企業の価値が上がれば株価が上昇します。 対して金は、それ自体が価値を生み出すわけではありません。 しかし、金鉱山会社の収益が金価格の影響を強く受けることを踏まえて考えてみると、大量に銀行株を売却している一方、金鉱山株を購入した背景には、バフェット氏の金に対する見方が変わってきたと取ることもできるのではないでしょうか。 なぜ長年の全否定から一転、「投資の神様」は金関連の投資へと踏み切ったのでしょう。 2020年8月7日に、金の価格は史上最高値の1トロイオンス(31.1g)当たり、2072ドルをつけました。 本書では、近年の金価格上昇に見る、金の魅力についてお話ししていきたいと思います。 はたして金に投資対象としての魅力はあるのでしょうか? 金は、短期的にも長期的にも価格が上がる、もしくは下がりにくくなっている要因が多くあります。金の価格は様々な要因が複合的に絡み合って決まっているので、1つを抜き出して金の価格動向を決めることはできません。それでも、いくつか上昇要因は誰でも肌で感じていることなのではないでしょうか。2020年の世界のGDPは未曾有の減少を記録しましたし、銀行預金の金利はほぼゼロです。消費税は確実に上がっている上に、中国や北朝鮮との有事を心配する声はやみません。それ以外についても、これからどうなるかわからないどころか、先行きは相当に暗いでしょう。これから先、円安が進めば原油の輸入価格は上昇し、物価が高騰して悪いインフレが起こります。すると投資家が海外に資金を流出させるために株安が起こります。インフレが起きれば円安が進みますし、円安が進めばインフレが起きます。世界三大投資家のジム・ロジャーズ氏はこう語っています。「残念ながら、これから日本は確実に貧しくなっていく。財政赤字が膨らんでいく一方で、日銀が金融緩和でお金を刷り続けている以上、将来、円の価値は確実に下がるからだ。円がいまの価値を保っているうちに、早急に海外に資産を移すことを勧めたい」「これからは円の価値が下がることを考えて行動しなければならない。インフレにも警戒が必要だ。日本の財政は危機的な状況にあるが、そもそも財政赤字の返済などできるはずがない。歴史上、財政赤字で窮地に陥った例はたくさんあるが、いずれもきちんと返済できた例はない。みな猛烈なインフレに襲われ、国民の資産価値は大きく失われることとなった」「日本円で保有する資産と年金をあてにしている人が多いだろうが、そういう人ほど痛手が大きくなる。額面通りの金額を受給できたとしても、円安とインフレで実質的な価値は大きく目減りしてしまうからだ。財政破綻した旧ソ連の年金が、猛烈なインフレでその価値をほとんど失ったことを知るべきだ」出所:(ジム・ロジャーズ 大予測:激動する世界の見方(東洋経済新報社))ロジャーズ氏は親日家として知られますが、昔から色んな国にネガティブな発言しているので、もとからそういう論調の人なのだと思います。しかし、ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスに並ぶ世界三大投資家の一人の言葉を押しのけて、日本は大丈夫、というにはあまりにも政治経済が心もとない気がします。けれども、これは逆にいうと、現在の円は価値があり、少しくらいなら時間的猶予はあると断言してくれているようにも取ることができます。インフレ上昇時、金は上昇し、株が下がることが多いです。インフレが起きている時というのは、通貨の価値が落ちている時です。そういう時に、金の価格が上昇してくれていると、インフレヘッジの効果もあると言えるでしょう。金や実物資産へ投資する割合は全資産額のうち、10%から、多くても20%をおすすめします。なぜかというと、あまり少ないと、何かあった時に足りないかもと心配することになりますし、多すぎても、その分を株に投資していれば受け取れたはずの恩恵を損失していることになるからです。値上がり益を過度に期待せず、じっくり寝かせておく虎の子の資産として温存しておきたいですね。昨今の金投資ブーム、金投資関連の書籍やネットニュースではいかにも今、金を買わなくてはいけないような論調のものが多く、買い焦らせる内容が多い印象です。なぜ今金なのか、どうして金なのか、それが体系立ててわかりやすく解説してある情報源があまりにも少ないと感じ、稚拙ながら筆者がまとめさせて頂きました。本書では、一連の流れで金に投資するための基礎知識を網羅したつもりです。本書で足りない内容は他で補っていただきたいのはもちろんなのですが、こと金に関しては他の投資に比べて勉強することはあまりないのではないかと考えています。どういうことかというと、他の投資と比べて金は、「守りの資産」と呼ばれていることからも分かる通り、値上がり益を積極的に狙うような投資対象ではありません。普段の生活、仕事や投資に安心して取り組むために金はそこに眠っているのです。